キミは聞こえる

四章-9

 テストの手応えは、まずまずだった。

 自慢できるような点を取れる自信はないが、直視できないというほどではないだろう。

 とりあえず赤点さえ取らなければいい。

 放課後補習が入ると部活の時間が減ってしまう。それだけはなんとしても避けなければ。

 着替えをしながら、桐野はちらりと斜め後ろの席を振り返る。

 一番後ろのその席で、少女はテスト終了後に配られた解答をいつもと変わらぬ落ち着き払った表情でぼんやりと眺めていた。

 余裕過ぎたのだろう。

 いかに今回のテストが彼女にとって難無きものだったのかを、その顔が伝えている。

 いや―――桐野はソックスを上げる手を止めて、ふと思った。

 ……いや、別に余裕だったからというわけではないのかもしれない。

 出来たのは当然だろうが、もし仮に出来なくても、代谷はその顔で席に座っているのだろうか。

 喜びも悲しみも悔しささえも感じずに、ただ黙って、テストも何もなかったかのように。

 ―――動じないことが、いかに物足りないものか、わかるか

 鈴分橋の下であいつが言った言葉。

 それはつまり、なにも感じなくなる人生がどれだけ虚しいものであるかおまえに理解が出来るか、ということだったのだろう。

 ……そんなこと、言われただけでは、わかりようがない。

 俺はいつだって喜ぶときは喜んでいるし、怒るときは怒る、哀しむことだってある。

 楽しくて気づけば口を開けて笑っている―――いつだって心が作用した日々を送っているのだから。


 ただ……漠然と、そんな生き方はつまらない、と感じるだけだ。

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