キミは聞こえる
『されたというより――』

 ペンを止めて、泉は考える。

 思い出すだけで手に力が入る。

 認めたくない。
 認められるか、自分から設楽と心を繋げたなど………っ!

 しかし、悲しいかな、それが事実。

 桐野に嘘は吐きたくない。

『した、らしい』

 驚きは、書くよりも表情で見せたほうが早い――

 というより、手に神経を向けるべきところをすっ飛ばして、彼の顔がどこよりも早く反応を示した、と言った方が正しいだろう。

 見開いた目は泉に何かを言っている。

 が、声に出してはならないと、自身に抑制をかけているのだろう、

 ぱくぱくと動く口から今にも出てきそうな言葉はしかし何一つ声にならない。

 広がった鼻の穴が次第に萎んでいくにつれ、ようやく手を動かすことを思い出したように、桐野は走り書きでこう言った。

『何をした』
『むいしきに話しかけてたみたい』
『おれとやったようにか』
『うん』

 筆談によりノートの左上が次第に悲惨になっていく。

 いつしか泉の前の生徒まで順番は回ってきていた。

『したくてしたわけじゃない。気づけばつないでたみたい』

 そう書き終えて、指先が震えていることに泉は気づいた。

 覚醒したと設楽は言った。
 本来の力が目覚め、能力がパワーアップしたのかも知れない。

 それを制御できていないのだとしたら、桐野以外の者たちとも、ふとした拍子に心で会話をしてしまう可能性がある。

 そんなことをすれば、泉の能力が世間に露見してしまう。

 知られてしまう。

 友香も、佳乃も聖華も、実父である藤吾でさえ知らない力の存在を――。
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