フラミンゴの壁
「あぁ、お前にはまだ早いかなぁ。じゃヒントをやるよ。そこから左を向いて三歩ゆっくり歩け。三歩にコオロギがいるそいつを踏んでまたこっちを見ろ。」

俺は言われたままに歩きだした。
一歩、二歩、三歩目を踏み出すところでコオロギが本当にいた!

「なぜだ!」俺は疑念が吹き出す途中に踏み付けようとバランスを崩しながら、言われた方向へと顔を向けた。俺はそのままアスファルトに倒れる。
しかし、今度はこの声の主がいるところがはっきりわかった。

「なんてところにいるんだ・・・」

男は路肩に立っている格子条柵と首都高の入り口を囲っている細かい編目にできたモアレのなかにいた。

「どうだい、わかったかい?俺のいるところが!」

これには驚いた。まさか男が三次元にいながら二次元のなか、それも稀に見ぬところにいようとは!

「おっさん、そんなところでなにしてんだよ。」

俺の口調は安心したせいか、自分を取り戻すために強かった。

「おぉ、俺の実態がないのに安心して強気にでたな。でも、お前。お前は何かを忘れているんだ。お前を挫くものを見逃している。」

「俺を挫く?どうあろうと俺を警察に突き出すことはできないよ?俺を羽交い絞めにすることもできやしない。証人がモアレのなかにいるひと?そんなありえないことを誰が信じるものか!」

「ほら、お前は知っている。ありえないこと。お前は可能性や未知なこと。お前の嫌いな不確定と現実の境にいると思え。それは混沌とする虚だ。俺がこのモアレ上にいるとは思うなよ。どんなきっかけでお前の目の前にあらわれるかお前にはわかるまい。すべては未然のなかにある。」

そう言い残して、男はモアレのなかを横ぎって去っていった。

その後の俺はあきらかに自分の人生の何かが局部的に狂い始めているのを感じていた。
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