フラミンゴの壁
第7章
郵便配達の男が弾け散ったあと、俺ははしばらくその場に立ちすくんでいた。

男は触るなと言ったが、俺が触れるとひとりの人間が消えてしまった。
その場に肉片も血飛沫もなく消えてしまった。

俺は男が言った「きっかけ」と言う言葉が気になっていた。
その「きっかけ」が男を消す手段だった?

男は消えたのか、死んだのか?
俺は加害者なのか殺人者なのか?
正当防衛となる過去を俺は論理的な過去としてつくりあげていた。

無意識に俺の足は帰路へと向かい、いつの間にか会社の前を離れていた。
ふと我に返ったとき、俺に胃が引っ繰り返ったように吐き気が襲った。
その場で俯いてゲロを吐いた。

「はははははっ、」笑い声が聞こえる。

俺は目蓋をむき出しにして乾いた眼球が剥き出しに青白い顔をしていただろう。
街路樹の細い幹に手をかけカラダをもたえながら辺りを見渡した。

「はははっ、お前は愉快だが、いまひとつ笑いのとれない男だな。」

俺は首をふり向け、声のするほうへ顔を向ける。
「だれだよ!」俺は怯えながら叫んだ。
さっきのことを目撃されていると思った。

「だれだよ、俺を脅しているか?」

「おまえ、怯えいるのかい?安心しろよ、お前が怯えても、明日にはみんな死んじまう。誰も知らない真実は真実の価値もない!」

「どこにいるんだ!姿を現せよ。」

「俺はお前を知っている。さっきのことも見ていた。お前は次第に自分の虚から脱しないと現実が成立しない。建て直したいんだろ、お前の性格はわかっているんだよ。決められたルール、規範、そうなることしかないこと。すべてがあるようにあり、すべてがあるがままにある。そしてお前がさっき消した男もそうなのさ。きっかけを見ればわかること。ちなみに顔をあげてそこから首都高の入り口を見てみなよ。俺がいるから。」

俺はひとの気配を探した。
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