手鞠唄~神は欠伸と共に世界を眺める~
ずいっと切り出されたのは、最近別の呼び名で世間一般を賑わせている事件だ。
本来は事件というより事故の扱いに近いのだろうが、事件扱いにする理由は、その件数にある。

「あ~それ知ってる~、あれでしょ?外傷も何もないのに意識不明で倒れてるってヤツ。」

被害者は解っているだけでも8人に上り、公開されていないものも含めれば、更に増えるだろう。
最後に目撃した者は口を揃えて、そんな風になるようには見えなかったと話す。
ある者は仕事での疲れは見えていたそこまでではなかったり、ある者は元気の塊のようであって兆しも何もありそうではなかったという。
年齢も、場所も、性別もバラバラで。
唯一一致するのは、皆夜のうちに倒れ、深夜もしくは翌朝発見されている。
つまり、日中を避けるように被害者の数が増えているのだ。
被害者のその傍には透明のパワーストーンが落ちていて。
犯人に該当する者が敢えて置いていっているという仮説は、捜査初期段階で否定されていた。
何より、その手口が奇っ怪で、どんな観点からも現段階では解明出来ていないのだ。
故に、犯人がいるのかどうかさえ断定できないというのが世論だ。

「そう、薬物反応も持病疾病でもないのにも関わらず、意識不明になって、発見されるアレ。」

声を潜めて、その事件の噂上についた呼び名を囁く。
それはまるで、呪文のように響いた。

「なんで『魂抜き』?」

最もな問いをしたのは二条羽哉(にじょう わかな)。
マイペースでおっとり天然な彼女は、数少ない手芸部員だ。
背中までの栗色の柔らかな髪をバレッタで留めて、儚い雰囲気を漂わせる。
生徒の間では、こっそり姫なんて呼ばれていたりもする。
羽哉の問いに要がニヤと怪しげな笑みを唇の端にのせた。

「なんでも霊感あるヤツらが片っ端から口揃えて言うんだってさ。『魂が入ってない』って。」

魂がない。
魂を抜かれている。
本来そう簡単に抜けようはずもないというのに、抜かれてどこかへ行ってしまった魂。

「それで『魂抜き』。」
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