手鞠唄~神は欠伸と共に世界を眺める~

あちらこちらで会話が飛び交う、教室の一角。
授業の合間のほんの短な時間。
午前最後のコマだけあって、空腹を窺わせる生徒も少なくない。
腹減ったの常套文句から宿題を忘れただのいう嘆きに、恋愛事情、はたまた株がどうのという話まで聞こえる。
バラエティに富んだ雑談は学生らしい観点を織り交ぜて、実にけたたましく日常を彩る。
そんな中。

「ねぇ、知ってる?」

はじまりは他愛ない一言だった。
秘密を知る者特有の、謎めいた問いかけ。
それにたっぷりの好奇心と、共犯者ないし同調者を作ろうとする楽し気な気配を纏う。

「最近噂になってるヤツ。」

散りばめられたヒントは、あたかも極上の蜜のように惹き付ける。
ヒントに該当するものを脳裏に探し、あれやこれやと記憶を探る。

「こっくりさんモドキ?」

校内で流行っている降霊術の亜種。
降霊術とは名ばかりの、ゲーム感覚のオマジナイのようなものだと彼女たちは認識している。
校内での名称は『姫巫女様』。
亜種だけあって、オプションの類が多少付くが、基本動作はこっくりさんとそう変わりはない。

「それもだけど、別の。」

ちっちっちぃと、話の首謀者でもある、図書委員でありバレー部の三枝要(さえぐさ かなめ)が歌うように楽しそうに言う。
因みに校内姉貴と呼びたい人No.1だ。
やや短いポニーテールを揺らしながら、いたずらっ子が八重歯を見せつつニヤリと笑う。


「なになになになに?怖い話?混ぜて混ぜて。」

話を聞き付けて会話に飛び込んできたのは、元気印の小柄な写真部員の相馬五月(そうま めい)。
別名、情報屋の異名を持つ、早い話噂好きの少女だ。
彼女が情報屋と呼ばれる由来は、得た情報の裏付けこそが重要とする姿勢からだろう。
その正確さも、素人と侮ること勿れという具合だ。
トレードマークはツインテールと肩から斜めに掛けたクマのぬいぐるみのポシェット。


「最近巷を賑わす怪現象、『魂抜き』」


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