さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 あたしが部屋から出ると、洗面所から水の流れる音が聞こえてきた。

 あたしは洗面所に行くと、母親の後姿に語りかける。

「あたし、映画に出ないかっていう話があるの」

 母親は振り返ると、疑わしそうにあたしを見る。

「どこかお金でも払ったの? もしかして人に言えないことをして。それに騙されているかもしれない」

「そんなことないよ。友達の知り合いが映画監督をやっていてね、その人の映画にって」

 悪い人に騙されていないか心配なのだろう。

 彼女のそんな気持ちは分からなくもない。

 でも、千春や尚志さんがあたしを騙すわけがない。

 そういえば尚志さんが千春が変なことを言っていたと言っていたような。

「一応、お母さんも話をしてみたらいいよ。お母さんが好きだった映画あるでしょう。果歩って映画」

「果歩……?」
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