さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「そういえば、千春、喉が渇いているのかも」

「運んでおきますね」

 あたしはそう言うと、彼に背を向けて、階下に下りていくことにした。

 別になんてことのない普通の言葉だった。

 でも、どこかで彼と話をできると期待していたのかもしれない。

 あたしがコップに水を注いでいると杉田さんがおりてきた。

 彼は千春に水を飲ませるためにおりてきたようだった。

 あたしは水を注いだばかりのコップを差し出す。

「千春のお兄さんと話をしてきたら?」

 あたしは彼の言葉にドキッとした。

「話をしたいって顔をしているから」

 彼は優しく微笑む。

「……無理ですよ。何を話していいのかも分からないから」

 彼と会話が出来ていた時間が嘘のようだった。

「そっか。人との関係って難しいね」

 彼は千春の部屋に戻っていく。

 ただ、あたしが分かったこと。

 それはあたしはやっぱり心のどこかで尚志さんに対する未練があって、杉田さんのことは好きになってはいけないということだった。

 少しずつ変わっていると思った。

 でも、結局、あたしは何も変わってはいなかったのかもしれない。

 ただ忘れようとしていただけで。

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