さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「俺は最低だよ。だから、最低なりに考えたんだ。俺があいつのことを嫌いだといい続けることが唯一の少しだけマシになれる方法かなって」

 彼女の顔が真顔になった。

「それでいいの? ちょっと考え方ずれているような気がしないでもないけど」

「いいよ」

 彼女は息を吐く。

「それならあたしも忘れてあげる。でも、あんたって本当にバカよね」

 彼女は肩をすくめて微笑む。

「いいんだよ。それで、さ」

 尚志さんの瞳は澄んでいた。あの、あたしとキスをしたときとは全く別人のように見えた。

 なぜ彼はあたしに嘘を吐いたのだろう。

 そんな必要など全くないのに。

 でも、本当のことを言われたら、あたしはどうしただろう。

 少なくとも彼が望む答えをあたしが提示できたか。

 そう聞かれたらその答えは分からなかった。
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