さよなら、もう一人のわたし （修正前）

第三十六章 愛しい人

　青い空が広がっていたのは午前中だけだった。あっという間に青い空は灰色の雲に覆われてしまっていた。

　雨が降り出す。

　あたしは傘もささずに歩いていた。

　この雨があたしの迷いを

　何もかも全て洗い流してくれればいいのに。

　そんな都合のいいことをただ考えていたのだ。



　雨は嫌いじゃない。

　少なくともこんな気分のときは

　傘を持っていないあたしが泣いていても誰も気づかないから。

　全て雨のせいにできるから。

　だから。



　あたしの足元に灰色の影が伸びているのに気づいた。

　空は真っ暗なのに、わずかに残る光がその影を映し出していたのだろう。

　あたしはその影の正体を確かめるために顔を上げた。