さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 今回、映画に出なければ尚志さんにも杉田さんにも出会わなかった。

千春ともここまで親しくなることはなかっただろう。

自分の父親のことも知らないままだった。



 だから、あたしにかけがえのない財産を残してくれたことは分かる。

 このままこの仕事を続けていけば、あたしはいろんな人の人生を演じるだろう。

 そして、それぞれの経験はあたしに大きな財産を与えてくれるだろう。

 でも、あたしの人生はどうなのだろう。

 他の人の人生を演じることで満足なのだろうか。

 それをあたしの人生だと思えるのだろうか。

 あたしは何を望んでいるのだろう。

 その度に尚志さんのことを思い出していた。

 最初に会ったときの彼の笑顔、彼のぬくもり、優しさ、たまに間の抜けた受け答えをしたときの表情。

 冷たくなったときの彼のこと。そして、彼の本当の気持ち。

 その全てがあたしの記憶に鮮明に残っていた。

 そして、今でもあたしの心を震わせる。

 誰かにとってかけがえのない人になってほしい。

 母親はあたしにそう告げた。

 あたしが尚志さんのかけがえのない人になれるか分からない。

 でも、あたしにとっては、尚志さんはかけがえのない人だった。

 彼のことが愛しくてたまらなかった。
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