さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 あたしがそんなことを黙々と考えていると尚志さんが口を開く。

「ごめん。俺が暗い表情を浮かべているから、君に余計なことを考えさせて」

 彼はまた悲しそうに微笑んだ。

 彼がそんな表情を浮かべていると、あたしの胸の辺りが締め付けられるように苦しくなる。

「何かあったんですか?」

「昔のことを思い出して、ね」

「千春のこと?」

 そう思ったのはある種の直感のようだった。理由があったわけではなく、そう考えていた。

「そう。あいつよく泣いていたんだよね」

「千春が?」

「多分、演劇が嫌いなわけではないとは思うんだ。最初は楽しそうだった。誰かに褒められたとか、目を輝かせながらそう言っていた」

< 99 / 577 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop