天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「九鬼さん」

教師や生徒達の近づいてくる足音を聞き分けて、エルが駆け寄りながら言った。

「オウパーツを、私が預かってもいいですか?」

「え?」

九鬼が頷く間もなく、エルは2つのオウパーツを拾い上げると、教師達の声がする方と反対側に走り出した。

「エルさん…」

九鬼は、エルの背中を見送っていると、校舎の端を曲がってきた教師と生徒が姿を見せた。

「何があった?」

割れた窓ガラスに気付き、スピードを上げた教師に、九鬼は振り向き、深刻な顔を向けた。

「誰かの悪戯だと思います」

「生徒会長!?」

立っていたのが、九鬼であることに、教師は驚いた。

「窓ガラスは、早急に入れ換えますので…」

九鬼は、教師に頭を下げた。

「あ、ああ…」

なぜか、教師はそれ以上何も言えなくなった。

凛とした九鬼の雰囲気が、何も言わせなかったのだ。

「生徒会で片付けますので」

頭を下げた九鬼に、教師は両手を振り、

「大丈夫だ。おい!お前ら、ホウキと塵取りを持って来い!」

一緒に来た生徒達に命じた。

「あたしもやります」

慌ててるように、九鬼は掃除道具を取りに走りながら、エルが持っていたオウパーツのことを気にしていた。

(あれは、危険だ。早くエルさんから回収して、どこかに封印しないと)

九鬼はさっさと、掃除を終わらせてエルの許に向かうつもりだった。




「は、は、は…」

2つのオウパーツを抱えながら、エルは走っていた。

そして、あまり人が来ない西校舎の裏側に来た。

「オウパーツ…」

足を止めたエルは、両手に抱えているオウパーツに改めて目を落とした。

「…」

父であるクラークが、自分の祖父に預けた右足のオウパーツとは違うが、危険なことは知っていた。

だから、どこかに封印するつもりであった。

自分の体に半分流れるエルフの力を使って…。

しかし、エル自身も忘れていることがあった。もう半分の血を…。

彼女の父…クラークは、人間であったが…彼は、魔獣因子を持っていた。
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