天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「!」

驚き足を止めた高坂の横に、幾多がいた。

「やあ〜」

廊下にもたれながら、愛想笑いを浮かべる幾多に、高坂は無表情になり、ただじっと見つめ合った。

「基本的に人は弱い。さらに、無償で素晴らしい力を与えて貰えるだったら〜喜んで受けとるよ」

少しおどけて見せる幾多に、高坂は表情を変えない。

幾多は肩をすくめ、

「だけどね。何でも苦労せずに、喜んで受け取るやつに…真の強さは手に入らないよ」

「…」

「そう…そんな強さは、まやかしさ」

その格好のまま、幾多は歩き出した。

「じゃあね〜真」

自分の後ろを歩き出した幾多に、振り返ることなく、高坂は口を開いた。

「極楽島で、生徒を助けたな」

その言葉に、幾多は足を止め、

「でも、結局死んだよ」

「どうしてだ?」

「簡単な理由さ。人は、憐れだからさ。でも〜死んだ。憐れを通り越して、滑稽さ」

「お前は…一体」

高坂が振り向いた時には、幾多の姿は消えていた。どうやら、廊下を曲がったらしい。

「…」

高坂はしばらく、誰もいない廊下を見つめた後、前を向き、歩き出した。

別に追いかけることはしなかった。

拳だけを握り締めると、高坂はさっきよりも、力強く廊下を歩き出した。




心動編。

完。
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