天空のエトランゼ〜赤の王編〜
やはり、応答がない。

「まあ…。そう簡単に死ぬやつでもないしな」

カレンはブラックカードをしまうと、改めて地面を見つめた。

「…」

九鬼も、無言で地面を見つめていた。

そんな2人の沈黙を、駆け寄ってきた浩也が破った。

「おばさあん!」

浩也の声に、カレンがすぐにキレた。

「誰が!おばさんだ!」

そばに来た浩也に、回し蹴りを喰らわす。

しかし、浩也は反射的に、片手で防いだ。

その滑らかな動きに、カレンと九鬼が驚いた。

(できる!)

2人が同時に、心の中で思ったが、当の本人はただ…にこにこするだけだった。

「チッ」

カレンは軽く舌打ちすると、足を下ろした。

浩也を睨みながら、

「同じ学年なんだから、せめてお姉さんと呼べ」

「うん!わかった」

浩也は頷き、

「カレンおばねえさん」

と言ったらもんだから、カレンはまたキレた。

「言葉がおかしいだろが!」


そんな2人のやり取りを聞きながらも、九鬼は浩也を見つめていた。

(この男が…信じられないレベルの強さを持っている)

今目の前にいる浩也からは、まったくそんな力を感じない。

しかし、今朝も先程も…目の前で、凄さを見ていた。

(彼は…我々の味方なのか?)

真剣な表情で自分を見る九鬼に、浩也は微笑んだ。

(な!)

屈託のない笑顔が、九鬼の緊張を解いた。

つねに、戦いに身を置く九鬼には、縁遠い…笑顔。

九鬼は、自分の顔が赤くなっていることに気づかなかった。



そんな3人を、柱の影に隠れながら、見つめる人物がいた。

阿藤美亜である。

「フン!」

美亜は鼻を鳴らすと、柱から離れた。

そして、廊下を歩きながら、かけていた眼鏡を外した。

牛乳瓶のフタのような分厚いレンズがなくなった瞬間、

廊下に歓声がわいた。

「誰だ!?あの子は!」

「す、凄い美人だ」

男達だけじゃなく、女子生徒も見とれる中…美亜は、前だけを見て、歩き続けた。
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