天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「大丈夫よ。今から帰るから…」

母親からの電話に出た女は、路地裏から歩き出した。

人目の少ない場所には、数人の人間の男に連れて来られた。

だけど、その場所は男達にとって、有利な場所ではなかった。

転がる死体に見向きもせずに携帯を切ると、女は見慣れた町並みに飛び込んだ。

「汚い世界」

人通りの多さも、計画性のないただ…金儲けの為に次々に建てられた建造物も、ただのゴミにしか見えなかった。

数年後には、壊されるもの。

新たな金儲けの為に。

だったら、それに関わる人間も壊されたらいいのに。

そう思いながらも、できるだけ無表情で歩く女の名は、赤星綾子。

行方不明になった兄…赤星浩一のことで、母親はナーバスになっており、いつも帰り道に電話をしてきていた。

こんな母親の気持ちは痛いほどわかったが…。


しかし…。

(自分はもう…)

綾子は数秒だけ目を瞑ると、人波に任せて歩き出した。


「あ」

突然前から、声がした。

自分に向けられた聞き覚えのある声に、綾子は足を止めた。

「あらあ」

自然と笑顔になった自分に、綾子は心の底で驚いていた。

「お久しぶりですね」

向こうも笑顔だった。

(お互い…似合っていないかもね)

そんなことを思うと、さらに笑顔になってしまった。

「そうね」

綾子は、頷いた。

「仕方がありませんよね。就職されたのだから」

「…」

綾子は、目の前で微笑む人間に自然に優しく見つめてしまった。

無言になった。

なぜならば、彼女こそが…綾子の最後の友であったからだ。

「今、お帰りですか?」

「ええ」

綾子は、また笑顔になった。

「お忙しいんですね」

「あなたこそ…」

綾子は、目の前の人間の姿を見て、

「今…帰りなの?やっぱり、忙しいのね。生徒会長にもなると」

「そ、そんなことは…」

少し照れたような顔になった人間は、九鬼真弓だった。

それは、久々の再会であり…まだ互いが偽りの途中でもあった。
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