天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「…」

少し互いに、会話が途切れてしまった。

別に、会話に困る間柄でもない。

ただ…深く話すことはできなくなっていたのだ。

特に、綾子の方が…。

「フッ…」

綾子は、口許をほんの少し歪めてから、満面の笑みをつくり、

「じゃあ…またね。真弓ちゃん」

「あっ、はい」

九鬼を見つめながら、横を通り過ぎて行く綾子を…ただ横目で見送った。

数秒後、はっとした九鬼が振り返ると…もう綾子の後ろ姿は人混みに埋もれて見えなくなっていた。

「?」

九鬼はしばらく、顔が見えない人々の背中を見つめた後、ゆっくりと歩き出した。

すれ違う人々と、目を合わすことなく。

人波と反対方向に。

(どうして…)

九鬼は前を見つめて歩きながら、一瞬だけ感じた違和感について考えていた。

もう二度と、綾子に会えない…そんな気がしたからだ。

だけど、その時の九鬼は…その一抹の寂しさを、学生である自分と社会人になった綾子との立場の違いから発生したと思い、納得した。

立場の違い…。

それが、そんな単純なことではないことを…九鬼は知らない。



去っていく九鬼の後ろ姿を、人混みに紛れて見つめていた綾子の横に、九鬼の横を通ってきた数人の男女が立ち止まった。

「!?」

少し眉を寄せた綾子の耳元で、サングラスをかけた男が囁くように言った。

「お迎えに上がりました。テラよ」

その言葉に、フンと鼻を鳴らすと、綾子は再び人波に合わせて歩き出した。

その前と後ろを守るように、数人の男女が歩幅を合わせて歩き出した。

そして、綾子達の集団は、人波に紛れ…やがて、消えていた。
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