天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「うん?」

最初はわからなかった。

待ち合わせの場所に来た人物のことを。

ブルーワールドに行き、実世界に戻ってくるまでの五年間は、戦いの連続だった。

救う為の日々。

そんな僕が狂わずにいれたのは、共にいるアルテミアのお陰だった。

それは、血腥い日々でもあったけど…安らぎの日々でもあった。

だから、五年前の日常の感情なんて、忘れていた。

彼女が目の前に来て、僕の名前を呼ぶまでは…。

「久しぶりね」

笑顔を向ける彼女が、メールを送ってきた人物と思わなかった。

偶然、会ったと思った。

「あなたは…」

彼女の笑顔が、過去を呼び覚ました。

僕は目を細め、

「矢崎…絵里さん?」

フルネームを口にした。

「そう正解。わたしのこと…覚えてくれていたんだ」

ぱっと満面の笑顔になる絵里。

紛いなりにも、一度好きになった女の子を…忘れることはない。

ただ…思い出さなかっただけだ。

ほとんど、話したこともなかったし。

多分…突然異世界に精神を召喚されて、気を失った僕が、保健室に連れて行かれた時に、一言話しだけだ。

彼女は、保険委員だったのだ。

それくらいしか接点がなかった。

「ほんと…久しぶりだよね。五年ぶりかな?」

記憶の中の届かない花ではなく、気さくに話しかけてくる絵里に、僕は少し戸惑ってしまった。

「そ、そうだね」

「ところでさ」

絵里はまじまじと、上から下まで僕を見て、

「赤星君って、まだ学生なの」

クスッと笑った。

「あっ!こ、これは…」

バンパイアとして目覚めてからの僕は、歳を取るのが物凄く遅くなった。

見た目が変わっていないからと言って…学生服は、おかしいか。

でも、ブルーワールドでは…この格好は、僕だけのオリジナルと認識されていた。

それに、実世界でも何かと便利だった。

学生服は、僕を学生と認識させるだけでなく、個性を埋没させた。

まあ…日本だけだけど、これを着てたら、いろいろやりやすかったのだ。
< 317 / 1,188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop