天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「神…か」

笑いながら、阿藤美亜は廊下を歩いていた。

「但し…各々のレベルに差がある」

ここは、特別校舎。かつては、防衛軍の本拠地だったが、哲也の死によって校舎内は閉鎖されていた。

さらに、虚無の女神の騒ぎもあり…あまり、人が寄り付かない場所になっていた。(但し…虚無の女神の件は、公にはなっていない)

五階建ての特別校舎。その最上階の廊下を、美亜は歩いていた。

防衛軍に所属していた生徒が訓練室として、使っていた突き当たりの右手の教室。その前で、美亜が立ち止まると、自動で扉が開いた。

勿論、自動ドアではない。

板の間に畳を引いた教室は、柔道などの訓練に使われていた。

まだ少し汗臭い…教室の真ん中に、彼女は横たわっていた。

彼女の名は、九鬼。

土足のままで畳に上がると、ぐったりと意識を失っている九鬼のそばまで歩いていった。

「…出来損ないの女神の力しか持たない…今のお前には用はない。しかし、お前の戦い方は、嫌いではない」

蹴り技を得意し、武器をほとんど使わない九鬼の戦闘スタイルを気にいっていた。

「奪う価値のない力だが…否定はしない。だから」

美亜は分厚いレンズの眼鏡を外した。赤く光る瞳が、露になった。

「助けた。お前を…あたしの眷族にする為に」


倒れている九鬼を見下ろしながら、美亜は口許を緩めた。すると、唇の端から、鋭い牙が覗かれた。

「光栄に思うんだな。今まで下僕はいたが、あたしの眷族はいなかった。初めての洗礼を、有り難く受け入れるがいい」

美亜はゆっくりと、身を屈めた。そして、手を伸ばし、九鬼の黒髪を避けると、首筋をさらした。

あとは、そこに…牙を突き立てればいい。

その瞬間、九鬼は…美亜の奴隷を化す。

「心配するな。あたしの眷族になっても、やることは一緒だ。人間を守ることはな。さらに…バンパイアの力も得ることになる。お前は、今よりも強くなるんだ。悪い話ではないだろ」

美亜は微笑んだ。
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