天空のエトランゼ〜赤の王編〜
月が昇った夜空の下。

距離を取って、現場を見つめる野次馬。

ざわめく人混みの後ろで、香坂は倒れている少女の顔を確認した

(違う!)

香坂は目を細めた後、額が割れピンクの脳味噌が見える少女から顔を逸らし、

「チッ」

柄にもなく顔をしかめながら、香坂は音を出して舌打ちした。

それは、先程見た少女と違うことに安心した自分に対してだった。

(人が死んだんだぞ)

自分に苛立ちながらも、香坂は現場から離れることにした。

人が多すぎて、調べられない。

(屋上にいくか)

そう思った時、後ろから声をかけられた。

「あっ…。す、すいません…情報倶楽部の方ですよね」

「え、ええ」

香坂は声をかけられたことに驚きながらも、ゆっくりと振り返り…絶句した。

(な!)

なぜならば、そこに…先程脳裏に焼き付いたばかりのあの少女そっくりの生徒がいたからだ。

しかし、大月学園の制服を着ていることと、栗色の髪が、先程の少女と違うことに気付き、高坂は何とか平静を保てた。

「な、何か?」

少女は少し俯いた後、意を決したように顔を上げ、

「わ、わたし…今、飛び降りた麻耶の親友なんです!」
胸をぎゅっと抱き締め、一歩前に出て、

「ま、麻耶は殺されんです!」

涙を流しながら、高坂に向かって叫んだ。


その生徒の名は、綾瀬理沙。。

今さっき、飛び降りた高木麻耶と同じ…演劇部の部員だった。

そう言った後、突然…理沙の顔色は悪くなり、嗚咽していた。

(仕方あるまい…)

理沙は、目の前で麻耶が飛び降りるのを間近で見たらしいのだ。

「お願いします!麻耶を殺した犯人を探して下さい!」

遠くから近付いてくるサイレンの音も、高坂には聞こえなかった。

ただ自分を見つめる理沙の涙で潤んだ瞳と、飛び降りながら微笑んだ少女の目を重ねて見ていた。

決して、交わることのない瞳。

それなのに、高坂の心は傷んだ。

その瞬間、長い…幻想と間違う物語が始まった。

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