天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「いいえ!あなたが来なければ、あたしはやられていました」

きっぱりと言う梨々香。 こういう時の彼女は、素直である。

「ありがとうございます」

再びお礼を言う梨々香に、九鬼も頭を下げた。

「こちらこそ…ありがとうございます」

別に、お礼を言われる為に戦ってはいない。戦うことしか、自分にできないと理解している。だからこそ、そんな自分にありがとうを言ってくれる…そのような方には、心からの感謝を送りたかった。

そんな2人を見て、嬉しそうに見つめる理沙。まったく無関心の真由は、ショッピングモール内を見回していた。

高坂は、反応の違う2人をちらっと見た後、出入口の方に顔を向けた。

(さっきの…彼女は?)

圧倒的な力を持った…謎の存在。

(敵では…ないのか?)

そう思った自分に、高坂は唇を噛み締めた。

(楽観はするな!今はただ…謎を解こう)

高坂は、理沙と真由の方に向き直った。

その高坂の目が、真由のそばに向かう輝の姿をとらえた。

「い、痛ましい…ですね」

何と言葉にしていいのか…わからない輝は、惨劇の痕を見つめる真由にかける言葉がなかった。

なのに…そばに行ったのは、彼女が悲しそうに見えたからだ。

実際は、輝が感じた悲しさではないのだが…。

「な、何と言っていいのか…」

言葉を探す輝に、真由はクスッと笑って見せた。

「言葉なんていらないわ。ただ…見たままよ」

「み、見たまま…」

自分の言葉を繰り返す輝の方に、真由は顔を向けた。

「え」

少し残念そうな真由の表情の意味が、わからなかった。

「あなたは…折角の強さを、人間という弱さで、圧し殺している。その心を捨てたら、あなたは…もっと素敵になるのに」

そう言った真由の脳裏に、獣になった輝の姿が映る。

(面白いわ…。第2ラウンドの始まりとしたら…)

真由は、にやりと笑うと、輝の方に、人差し指をゆっくりと向けた。
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