天空のエトランゼ〜赤の王編〜
情報倶楽部の部室から出た高坂のカードが、着信を告げた。

「うん?」

高坂はちらっと、ディスプレイを確認すると、通信をオンにした。

「どうした?」

かけてきたのは、さやかだった。

「今、どこなの?」

「部室から出て、帰るところだ」

高坂は1人…正門までの道を歩く。

「言いにくい話なんだけど…」

さやかのテンションが、いつもと違った。

高坂は眉を潜め、

「別に構わんよ。どんな話でも…」

高坂は、正門への正規ルートである一本道に出た。

「…前田先生から、今回の合宿に、参加するメンバー表を見せて貰ったんだけど…」

そこまで言って、さやかは言葉を止めた。

「…」

高坂も無言になる。

「あのさ…本当に…言いにくいんだけど…」

「…言わなくていい」

高坂は突然、足を止めた。

「え…」

高坂の予想外の言葉に驚くさやか。

「ご、ごめんなさい…」

思わず、謝ってしまった。

「違う…。謝らなくていいという意味だ」

高坂は、前方を睨み、

「お前の言いたいことがわかったから…ありがとう」

それだけ言うと、高坂はすぐに通信を切った。なぜならば、これ以上冷静に話せる自信がなかったからだ。


正門の前に、1人の男が立っていた。

「やあ〜真(まこと)!元気にしてたかい?この世界で会うのは、初めてだからね。同じ学校に通っているのに、なかなか会わないもんだね」

夜の為、静まり返った校内では、少し離れていても男の声が、聞き取れた。

「い、い…」

その声を聞いた瞬間、高坂の全身が震えだした。恐怖ではない。怒りである。

「幾多流(いくたながれ)!」

高坂は叫び、駆け出した。

幾多流。

彼と高坂真は、双子の兄弟である。

しかし、高坂にはこの学園に通う以前の記憶がなかった。

ただ…憎むべき相手としてだけ、心が認識していた。

鬼の形相で向かってくる高坂に、幾多は両手を広げて見せた。
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