天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「あ、あのお!」

思いきって話しかけようとした時、車内に前田達が戻ってきた。

「うん?」

前田は、車内の通路で固まっている輝に気付くと、背中を蹴り、

「さっさと、座れ!隣に!」

真由の方へと押した。

「ええ!」

よろめきながらも後ろを振り返り、輝は前田を見た。そのすぐ後ろにいた緑が、顎で輝を行くように急かした。

「さっさとしろ!時間がないんだ!出発するぞ!」

もう前田は、輝だけをかまっている場合ではなくなった。

車内に戻ってきた生徒達に、

「ここからは、魔物の襲撃もあり得る!各自、臨戦体勢を取れ!気を抜くなよ」

注意を促すと、自分も手甲を取りだし、装着した。

バスは関所を離れると、いよいよ人間のテリトリーから外れた。

妙な緊張感が流れる中、

「アハハハ…」

輝だけは違う意味で緊張していた。

少しブスッとしたような真由の隣で、肩身の狭い思いを味わっていた。

(と、隣なんて…)

輝は今まで、こういった時に女の子の隣に座ったことがない。

あまり、女の子と隣同士というシチュエーションに慣れていなかった。

確かに、緑やさやかとは一緒によくいるが…軽く虐待を受けているのと同じだった。

普通ならば、女性恐怖症になってもおかしくないのだが…輝は、2人を女ではないと、認識することで女性恐怖症にはならずにすんでいた。

(そうだ!女の子は、もっと可愛くて!いいもんなんだ!いい臭いもしてさ!さやかや緑のような野蛮で、男…いや、獣…いや、鬼のようなやつとは違うだ!)

輝はガッツポーズを取り、ちらりと横を見た。

(それにしても…まるで、人形のようだな…)

彫りの深い顔をした真由の横顔は、鼻が高くってバランスがいい。

そのまま見とれそうになる輝の頭を、緑がまた小突いた。

「声に出てるぞ!誰が、野蛮で鬼だ!」

どうやら、心の中で話していると思っていたが、無意識に声に出ていたらしい。

車内に、笑いが起こった。
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