天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「前田教官!」

前で止まると、足を鳴らして敬礼する警備員に、前田は軽くため息をついてから、敬礼を返した。

「潜水艦の準備は、できております。いつでも、発進できます」

「ご苦労様です」

2人は、敬礼を解いた。


前田は後ろを向くと、二台のバスから続々と降りてくる生徒達に叫んだ。

「すぐに乗り込むぞ!潜水艦の前に集合しろ!」

「はい!」

生徒達の返事に頷くと、前田は潜水艦の方へ歩き出した。

すると、先程の警備員も前田の隣を歩き出し、口を開いた。

「学園で起こったことは、こちらでも耳にしております。まさか…司令がお亡くなりになるなんて…」

警備員は、前方の潜水艦を見上げ、

「月の力を手に入れた後は…日本地区主体の新生防衛軍を旗揚げするはずでしたのに…」

肩を落とした。

「…」

前田は、何も言葉を発しなかった。

「!」

警備員は慌てて、顔を上げると足を止めて、再び離れて行く前田の背中に、敬礼した。

「武運を祈っております。お気をつけて!」

この港町は、前校長結城哲也が、新生防衛軍の前線基地として建設したものだった。

しかし、今は…周辺の住民が安全を求めて集まり、基地というよりは住宅地に近くなっていた。

漁業を生業となる住民達を、魔物から守る為に…哲也が残した兵士達が駐留していた。

そして、最大の遺留品が、海に浮かんでいた。

「乗り込むぞ!」

前田は、後ろからついてくる生徒に叫んだ時…先程の警備員が慌てて走り寄ってきた。

「言い忘れておりました。昨日、生徒の1人と思われる者が、ボートを奪い…島に向かったものと思われます」

「な」

前田は、絶句した。

一瞬だけ、潜水艦の向こうを見つめた後、

「心当たりがあります。その生徒のことは、こちらでお任せを」

警備員の方を向き、頭を下げた。


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