月と太陽の事件簿9/すれちがいの愛情
中学の時に父親を、社会人2年目の時に母親を、それぞれ病気で亡くしている。

祖父母もとうに亡くなっており、淑恵は結婚するまで天涯孤独と言ってもいい境遇にあった。

「淑恵さんて気の毒な人だったのね。でも、おかしいわね」

しみじみ言った後、里見さんは首をかしげた。

「今の話を聞いてると、淑恵さんが理花ちゃんを虐待する理由が見当らないんだけど」

それに関してはあたしも同感だった。

淑恵がたったひとりの娘であるリカちゃんを大事に思うならまだしも、なぜ虐待をしなければならないのか?

「里見さんと同じこと、あたし児童相談所の人に言いました」

「そしたら相手はなんて言ったの?」

「『たったひとりで子供を育てることがどれだけ大変か、あなたには想像つきますか?』」

菊村の表情を思い浮かべながらあたしは言った。

「あたしには想像つかないわね」

「あたしもですよ」

てか子供いなかったんだ里見さん。

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