香る紅
織葉が倒れた時、「強引にでもやっぱり休ませればよかった」なんて、しても意味ない後悔しながら黒板から走った。

「織葉!やだ、しっかりして!」

そう言っても、織葉は目をうっすらあけているだけで、反応を返してくれない。

気づけば実紘も隣に来てたから、「保健室につれてって!」と叫んだ時だった。

もともとざわついていた教室が、もっとうるさくなった。

そして勝手に、倒れていた織葉が浮いた。

「え・・・?」

見上げると、今一番憎たらしい奴が、ものすごく心配そうな顔して、ものすごく大切そうに織葉を抱き上げていた。

「先生、貧血を起こしてるので、このまま連れて帰ります。」

教室はその言葉でなぜか一気に静かになった。

相手に言うことを聞かせる貫禄みたいなものが、憎たらしいそいつ―――緋凰にはあって。

教室も、先生までが黙らされた。

先生は「わかった。気をつけて。」それだけ必死に言った。

「実紘、祈咲、俺と織葉の荷物持ってきて。迎え来るまで保健室にいるから。」

「わかった。」

実紘はあーあ結局こうなるんだな、とでも言いたげに荷物を準備していた。

私はというと、返事なんかしてやりたくなくて、無視して準備を始めた。

だって、悔しいじゃない。

そのとき一番憎たらしい奴の言葉に、黙らされてしまったなんて。

その後緋凰は先生を一回睨んだあと、保健室へと、教室を出て行った。




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