香る紅
緋凰の威圧的な横っ面に、思いっきり平手を打ちつけた。

いつも余裕な緋凰の顔が赤く腫れあがっていくこと、打った時の音があまりに綺麗に響いたことがなんだか清々しかったけど、まだこんなんじゃ、怒りは収まらない。

打ちつけた手も痛いし。

「祈咲・・・?」

驚いて目を見開いてこっちを見る緋凰。

こんな情けない表情を向けられるのも初めて。

だけど、まだまだ。

私の大切な織葉を泣かせたことを考えれば、全然足りなかった。

「ふざけんな・・・調子に乗んな!」

こんなのに、織葉を、あげたくない、その一心で声を張る。

「織葉があんたのために学校来てるってのは確かだけど!貧血でボロボロでもあんたのために来てるけど!けどね、織葉にだって織葉の世界があるんだから!私と会うの楽しみにしてくれるんだから!自分のためだけに来てるだなんて、うぬぼれたこと考えんな!」

いいながら私は、織葉と前に話したことを思い出した。



『織葉、ほんとに緋凰のこと好きだよね。あんな奴に、よくそんなに尽くせるよ。』

『そんなこと、ないよ?隣にいろって言ってくれたから・・・。優しいよ。だから、私も、学校行くことにしたの。』

『なーんだ、学校来てるの、本当にあいつのためだった訳?』

『・・・確かに、緋凰のためだけど。・・・自分のためも、今は混ざってるの。学校来なきゃ、祈咲ちゃんと会えないじゃない?』



そう優しげに微笑む織葉は、せつなげだけど、楽しそうで。

もし、織葉と会えなくなったら、こっちから会いに行くけど、でも、その言葉すごく嬉しかったんだから。

「織葉危ない目に合わせたくないんなら、取られたくないんなら、織葉と付き合えばいいじゃない!それで織葉守ればいいじゃない!織葉は、あんたを束縛したくないからって、これ以上を望まないの!それくらいわかってるでしょ!だったらあんたからそういうこと、言わなきゃ、織葉がつらいまんまじゃない!」





< 31 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop