香る紅
車に行くと、すでに織葉を車に乗せて、車の中ではお手伝いさんたちが織葉に補助剤を飲ませていた。

「ほら、荷物。」

実紘は、いつになく固い表情で緋凰に荷物を渡したけど、なぜか受け取られたのは織葉の分だけだった。

「サンキュ。」

『バタン』

すると車の戸を閉めて、織葉だけを帰らせたのだった。

「……」

意味が分からない。

今までも織葉が貧血で早退するようなことは何度もあったけど、毎回、どんな風に言われようが、緋凰は織葉に付き添って帰っていたのに。

「・・・緋凰、なぜ一緒に帰らない?いつも、絶対一緒に帰ってただろう。」

屋上を出た時から無言だった実紘が発した言葉が、硬い。

これは、滅多に聞けない、穏やかな実紘が、最大限に怒っている時の声。

「・・・俺のいるところに、くっついてくる癖を、直させなきゃ、いけないから。」

なぜだか緋凰は、すごく落ち着いてみえて。

「お前、ここまで織葉のこと巻き込んどいて、いまさら織葉のこと捨てるような・・・!」

「捨てるわけないだろう!」

緋凰の威圧的な態度に、いつもは委縮してしまうけど、なんだか今日は腹が立った。

ナニソレ。

だったらなんであんなことするのよ。

「あいつは・・・!俺について来るから、あんな訳のわからないようなやつらに連れてかれたりすんだよ!」

緋凰は感情的になって、吐き散らす。

「だったら、家の奥に、しっかり大切にしまっておいた方が、よっぽど安心だよ!隣にいさせて学校で危ない目に合わせるより、隣にいないことを俺が我慢してる方がよっぽどましだよ!」

何よ、そんなに織葉のこと大切に思ってたんじゃない・・・はじめて緋凰の本心を聞いた気がする。

けど、なんて愚かな間違い。

「お前な、」

実紘が呆れてものを言おうとしたのを遮って、動いた。



『パン!!』




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