ことばにできない
慌ただしく、新しい仕事が始まった。


仕事は主に帳簿付けだった。

雑貨店と運送店と古物商の帳簿がある。

それぞれが細かくて、最初のうちはしょっちゅうヘマをやった。

他には、離れた場所にある運送店や古物商へのおつかい。

そしてもう一つ。
毎日、昼過ぎに「会長」─ 社長のお父さん ─ を訪ねること。



「会長」は入院中だった。

勤め始めた最初の日、専務が言った。

「会長は、あなたのお母さんと同じ病院に入院してるの。

家族の誰かが必ず面会に行って、パジャマを取り替えたりするから。

あなた、それを毎日手伝ってちょうだい」


実際には私は、面会に行く人の車に乗るだけだった。

会長の病室に顔を出して挨拶した後、30分くらい、母の様子を見る時間を貰えた。




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