ことばにできない
翌朝は店長の顔を真っ直ぐ見られなかった。

朝の食事の支度を手伝っているとき、台所を覗いた店長から「おはよう」と言われた。

うつむいて、小さな声で「おはようございます」と答えたら、店長が大声で「おいッ!」と呼んだ。慌てて振り向いたら、店長が言った。

「挨拶は相手の顔を見て、ハッキリと。いいな」

にっこり笑った店長に向かって私は挨拶をやり直し、社長家族と一緒に朝の食卓を囲んだ。



その日の午前中、私はアパートを整理しに行った。

専務に借りたスーツケースに、身の回りのものを詰め込んでから、念入りに部屋を掃除した。

お昼前にアパートのドアに鍵を掛け、大家さんに挨拶をした。

そして私は荷物を引きずりながら、床屋へ入った。







ばっさりと髪を切った。





ショートヘア? 

  そんなもんじゃない。

    野球少年みたいな五分刈り。

  *   *   *
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