君色



大丈夫、と優しく言って男は冷えたタオルを理香の指先に当てた。

優しく、ただ優しく触れるその指を理香はじっと見つめていた。

身体が震える。



さよなら



ただその一言を伝えたいだけなのに

どうしてこんなに胸が苦しくなるんだろう。

嫌いになったわけじゃない。



けれど、先生、さよなら



心で何度も反芻するその言葉に心が蝕まれていく。


先生の顔を見て

声を聞いて

一緒に歩いて

キスをして

一緒に眠って

過ごした日々と


先生に


今日さよならを言う。



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