あの日の願い【短編】
山門の手前を水路沿いに右手に曲がり木陰にある椅子に腰掛けた。

僕は味噌田楽を、ユイはみたらし団子を食べて一息つく。

水路の向こう側の斜面には木々が生い茂っている。

真夏日の強い日差しを緑が遮り、水路の涼しげな音が僕らを心地よく包む。


裏手から坂道を登り、本堂でお賽銭を入れると、ユイは音をたてて二回拍手をした。


「ここは神社じゃないから拍手じゃないよ」


僕がそう諭すと彼女は口を尖らせて黙ったまま合掌した。

そのまま回れ右をして正面の山門に向かおう思ったが、ユイがいない。


「これ面白いよ」


 ユイの声。

周囲を見回すと、右手の大きな木のところでしゃがみ込んでいる彼女を見つけた。

彼女の足元には小さな石像があった。


「宇宙人みたい」


楽しげな様子の彼女。

確かにその石像の耳は異様に長く、手足がくねくねしていて、普通の人間の姿とは程遠い姿だった。

「元三大師」と刻まれたその石像に僕は始めて気がついた。

見落としそうな程に小さな像。

あの時に見つけていたら、美絵はなんと言っただろうか。

僕はふと七年前の事を思い出した。

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