あの日の願い【短編】
鬼太郎茶屋を出て、僕らは山門に続く道を歩いた。

ちょうど七夕の季節という事で、道の両脇には、大きな笹が等間隔に設置されている。

笹にはカラフルな短冊が結びつけられ、風に揺られている。


「あれ書いてきてもいい?」


そう言うと僕の返事も待たず、笹の隣に置かれたテーブルで短冊に願いを書き始めた。


「絶対に見ちゃダメだからね」


ユイに釘を刺され、仕方なく僕も一つ離れた笹の下で短冊に願いを書く事にした。絶対に叶う事のない願いを。



『ユイとずっと一緒にいられますように』



恥ずかしさもあって、ユイに気付かれる前に僕は笹に短冊を結びつけた。

彼女が手の届かないような高い場所を選んで。

短冊に願いを書き終えたユイが僕を呼ぶ。


「ねえ、私届かないの。結んでよ。見ちゃダメだからね」


ユイがじっと僕の事を注視しているので、短冊の内容を確認できないままに枝に結いつけた。

ユイは満足そうに「ありがと」と小さな声で言った。
< 3 / 11 >

この作品をシェア

pagetop