グッバイ・マザー
 「お願いです。いるかいないか、分かればいいんです。伯母はプライドの高い人なのできっと教えてくれません。言わなくていいので、電話にノックをしてください。一回ははい。二回はいいえ、で。」
 ノックが一回、聞こえた。
「高遠小名子はそちらに現在通院していますか?」
 ノックが再び聞こえた。一回だった。
「ありがとうございました。」
 僕は電話を切った。
 ゆっくりと携帯を置く。すぐに出しっぱなしのタウンページを元の棚に戻した。
 その棚の中に、大学ノートが並んでいた。きれいに、年号順に並べてある。
「日記…かな?」
 悪いと思い、すぐに伸ばした手を引っ込めたが、伯母の涙の訳を知る必要があると思い直した。
 伯母には秘密がある。そして恐らく、僕の母にも。
 母が何故あんなにも酒を必要としていたのか、伯母は何故睡眠薬に頼らなくてはならないのか。それらの原因はきっと共通している。そしてそれは僕の祖母も関係する、僕達家族の秘密なんだ。
 僕は日記を手に取り、ページを捲った。
 紙の乾いた感触が、指先に伝った。
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