グッバイ・マザー
 姉は後ろに倒れ、僕はようやく自由になった。口の中が鉄の味になる。どうやら何処か切ったらしい。
 尚も殴りかかろうとする姉を、父が羽交い締めにしていた。
「放して!」
「止めなさい!弥生!」
滅多に声を荒げない父が、大声を出した。
「あんた最低ね。お母さんが死んだ時だって、一粒の涙も溢さなかった。」
 真っ赤に泣き腫らした目で、僕を睨みつけている。体の自由が効かないから、言葉の暴力を振るうつもりだろう。
「だから、なんだよ?」
僕は殴られた痛みからわざと挑発的に言った。
「姉貴はあの女の何を知ってるんだ?」
「皐月!」
父の怒声が僕に向けられる。
「父さんも姉貴も、あの女が俺に何をしたのか知らないだろ。毎日毎日酒を浴びる程飲んで話すことと言えば、愚痴だけさ。それを無視すれば俺の名前を叫ぶ。そして出て行かないと、あいつは俺の物をめちゃくちゃに壊すんだよ。どんな気持ちか分かるか?あんなアル中女と一緒に居るのって。」
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