サルビア
しばしの沈黙の後、店長があたしを見て言った。

「朝日、悪いけど、やめてくれへんか…」

「はっ?」

突然の言葉にびっくりしたのと、あたしは悪くないのに、という悔しさとショックで、頭がいっぱいいっぱいになる。

「何であたしが…」

呟くように言った。


「俺はな、お前とエリは、全くの別人やって分かってるで?でもな、確かによう似てんねん。ミオ達やお客さんが、本人て疑うのも、よう分かる。お前は何も悪ないで?でもな、お前の存在で、店の雰囲気が悪なってんのは事実や…」

「…」

「俺も最近知ってんけど、今では案内所までが、エリとそっくりな女の子がいますよって、この店案内してるみたいやし」


だからあんなに、新規のお客さんが来たんや…

別にあたしは、ちっとも有名人じゃないのに、何かおかしいとは思っていた。


「本間悪いけど…寮出るんは、急げとは言わんから…」

そう言って店長は、あたしに頭を下げた。

「…分かりました」

もう、そう言うしかなかった。

そりゃあたし1人と、ミオ達数人やったら、明らかにベテランのミオ達の方が、売上も上だった。


「なるべく早く、寮は出ます」

「本間すまんな…お前は悪ない。分かってるけど、今は周年やし、あいつらに抜けられたら困るんや…」

「もういいです!お世話になりました!」

そう言ってあたしは、急いで荷物をまとめて、お店を後にした。

お店を出た途端に、我慢していた涙が溢れ出た…悔しい…







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