危険中毒
「まあ、いい。」

腹を探りあうような
空気を破ったのは、
サタンの方だった。


彼は、私達の前まで
歩いてくると、
見るからに高価なスーツの
ジャケットから、
ナイフを抜き取り
私の手に持たせた。

独特の重さ。

冷たいその両刃は、
幾度となく、
誰かをキズつけて
きたのだろう。


「お前の腕がみたい。」


男が、私の輪郭を幾重にも
往復するように
指先で確認する。


「私を楽しませる器量もない上
刺客から私を守る技量も
ないオンナなんて、
始末におえないからねえ。」

そういって。


「なるほどな。」

ムーンが、
ピストルを収める。

「リディア。やるぞ。」

彼もまた、ジャケットの下に
装着したホルダーから、
ナイフを抜き、私を促す。

「待ってよ・・・。

勝手に話を進めないでよ!

私・・・情婦に
なるつもりもないし!

だいたいこんなモノ、
扱った事もないわよ!」

手にしたナイフを握ったまま
叫んだ。


「大丈夫だ。

この程度のモノなら、
素人でも扱えるさ。

諸悪の元凶を絶てば、
いつまでもやり合う
必要もない。」

彼は、私を腕から解き放し、
適当に距離をとるよう促した。

 
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