君が為に、届くことなかれ


「狐に…?それは、また何とも頂けない…」

同じく、花を愛でるのを趣味とする零刻は、その事実に不快そうに眉をひそめた。




「……何の花だ」

そんな折、一拍の呼吸を置いて問われたその一言に、朱莉……基、その場にいた全員がビクリと背筋を震わせる。


可笑しい事に、彼の忠実なる配下の彼でさえ、今この場で主が発言するものだとは思ってもみず…その意外さに、小さく息を呑んだ。



数秒の間、沈黙の時が流れ…

その震える程の静寂を破ったのは、微かな子猫の鳴き声にも似た、儚げな声音だった。



「……せんで…ございます…」

今にも、消え入りそうなくらい小さな声に、彼がわずかに眉を寄せたのを感じ取ったのであろうか……


その声を発した張本人である朱莉は、今一度その震える声帯に力を込め、掠れた声を吐き出した。



「槍…水仙…でございます」

その声に呼応するように、一度強い風が辺りを吹き抜け…根こそぎ抜き取られていた槍水仙の花弁の残骸を宙に舞わす。


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