君が為に、届くことなかれ
「……」
「………」
「………」
そんな百合雅達の努力も空しく…まるで初めから何も聞こえていないように、しょんぼりとしょげ返る朱莉
その繊細で傷付きやすいナイーブな心を前に、百合雅もイチもすっかり途方に暮れた。
一年に一度、その季節にしか咲くことを許されない花
その一瞬の命の開花が、どんなに儚くどんなに美しいものなのか……その尊さを感じ、朱莉は尚更この手でそれを守ってやれなかった事を悔やんだ。
「どうかなさいましたか?」
すると、不意に背後からそう声を掛けられ、驚いた三人は振り向くと同時に直ぐ様、地に平伏す事となった。
───…そこには、この"玉女天"館の主・信成の姿があった
「何か、お困り事でも?」
そして、彼女達に声をかけるのは、その人の忠実なる側近の零刻
その予期せぬ出現に、その場で唯一平静を保っていられたのは、イチだけであった。
「この前、折角イチ達が植えた花が、女狐に荒らされたんです」
「ただのキツネだ、バカ!」
頭を上げる事が叶わない体勢のまま、百合雅は平然と事を説明するイチを牽制した。