神楽幻想奇話〜鵺の巻〜
実は一族の誰もが、透には何の妖が憑いているのか分からなかったのである。

通常であれば生まれて間もない時に、霊力の高い一族の者が見れば何の妖が憑いているのかすぐ分かるのである。
しかし、父親の玄奘や僧正ですら、透には何が憑いているのか全く分からなかった。

間違いなく何らかの妖が憑いているのは明らかだったが、透の奥深くで心を閉ざしていて表に出て来ないのだ。

…透が生まれる際、母の澪(みお)は命を落とした。
それを予想できた玄奘は、澪の同意の元、伝承の儀を用いて澪に憑いていた「化け狸」の妖を透に授けた。

澪は、その妖の力をもって色んな者に化けたり、幻術で敵の目をだましたりする能力に長けていた。

退魔士としては好戦的な能力ではないが、味方としては何度も命を救ってくれた澪に、一族一同敬意を表していた。

そして玄奘はある目的の為、自らの命と引き替えに透へ自分に憑いている「犬神」を授けた。

…玄奘には元々「狛犬」が憑いていた、しかし長年の退魔生活により玄奘霊力が向上すると、憑いている狛犬はいつしか「犬神」へ、精霊化と言われる魂に変化していった。
それは百年に一人と言われるほど少ない現象だった。
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