この空の彼方
芦多だって灯世を離したいわけではない。



灯世が潰れないように加減して、しかし力一杯抱き締めた。



「もし、私が帰れなくなった場合は、私を忘れて欲しい。」


「何を…!」



身体を離して芦多をみようとした灯世を抱いて止める。



「万が一だ。
あまり引きずって欲しくはない。
私のために、灯世が人生を振るようなことはしないと約束してくれ。」



灯世、と少し怒ったような声で迫られ、仕方なく灯世は頷いた。



「……はい。」


「よし。」



芦多は灯世の頭を優しく撫でた。



と、バタバタと屋敷が騒がしくなり始めた。



「……屋敷の者が起きだしたようですね。」


「ああ。
…いや、違う。」



芦多は耳を澄ませた。



「灯世を探しているようだぞ。」



灯世はハッと身を強張らせた。



「いけない…!
芦多様にお咎めがいってしまう。」



芦多は惜しみながら、ゆっくりと灯世の身体を離した。



「行け、灯世。」


「はい。」



灯世は今にも泣きそうな顔で、芦多を見上げる。



「また。」



いつものお決まりの別れ文句を口にした芦多に、灯世もいつも通り返した。



「また。」



今回の“また”はいつになるかわからないが。



灯世の目から涙がこぼれた。




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