この空の彼方
辰之助以上に大切に、優しく千歳は腹を撫でる。



「子どもの頃の記憶って、なんでないんだろうな。」



答えが見つからず、灯世は黙った。



そのまま千歳は続ける。



「生まれる前から記憶があったらいいのに…。」


「千歳さん…。」



他の貴族の子どもが親に甘える姿を見て育ったに違いない千歳達。



奉公に上げられたのか、捨てられたのかはわからないけれど、何らかの事情があって親と暮らせなかった千歳達。



この屋敷で働いている少年少女の大半はきっとそんなような子どもなんだろう。



どれだけ寂しくても、甘えたくても、愛してほしくても、誰も構ってはくれないし、働かなくてはならない。



灯世には想像できないつらさがあったに違いない。



灯世は黙って腹を見つめる千歳を見守った。














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