この空の彼方
灯世は八重と別れて部屋に戻り、パタンと障子を閉めた。



そして、無意識に衣を脱ぐ。



普通の柄のついた着物を手にとった。



これも習慣で、このあとは書物を読むのだ。



この屋敷には膨大な量の書物が保管されており、その閲覧を許されているのは母である八重と自分だけだった。



純血の子孫は母と自分だけで、その他の人間は親戚や使用人だ。



ところが、純血だからといって贔屓されるでもなく、扱いは年によって変わる。



一番に優先されるのは最高齢者である父方の祖母で、その次が母、あとは年齢順に親戚の人間、そして最後の方にこの屋敷で最年少である灯世なのだ。



不満を感じたことはないが、不思議ではある。



なぜ、自分は食事も下座のほうで、ついている使用人の数も一番少ないのに、大守護者である母と一緒に朝の祈祷を許されたり、書物を自由に手に出来るのだろう。



実際、暮らしていくのに差し支えはなかったので、そこまで気に留めていない。



最後に紅の帯を整え、灯世は部屋を出た。



そして、そのまま庭を横切り、離して造ってある書物庫に向かった。










夕方、夕食の時間だと使用人が呼びに来るまで、稚也が書物庫から出ることはなかった。













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