この空の彼方




***



灯世は昼下がり、辰清を連れて庭を散歩していた。



道々、辰清は目の前を横切っていく蝶や蜂を追い掛ける。



灯世はこけるのではないかと心配だったが、だいぶ足元がしっかりしてきた辰清は一度も転ばなかった。



「母様、またお散歩行きましょうね。」



帰ってきて、部屋に上がった途端に辰清は次の約束をおねだりする。



灯世は苦笑いで頷いた。



「いい子にしていたらね。」



いつもいい子だと言いたげに、辰清は頬を膨らませた。



確かに粗相をしない、行儀のいい子だ。



「ちょっと母様は手を洗ってきます。
辰清、お茶を飲んでおいてね。」


「はーい。」



散歩で喉が渇いている為か、辰清は素直にお茶を口に運んだ。



それを見届けると、灯世は部屋を出た。



暑い…。



元気盛りの辰清は平気な顔をしているが、重い着物を着た灯世にはきつい。



薄い着物一枚でいられたらどんなに楽だろうか。



肩書きがついてまわると、面倒なことが多くて困る。



あぁ、ただの娘に戻りたい。



そういえば、と灯世は足を止めた。









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