この空の彼方
最近自分の屋敷に帰っていない。



丈に会いたい。



辰清を見せたい。



きっと、涙を流すだろうな、と灯世は笑った。



歩き始めると、涼しい風が頬に当たる。



いつもは何も思わないけれど、今日は風がとてもありがたかった。



水で手を冷やすと、灯世は部屋に戻った。



早く帰らないと、辰清が退屈しているだろう。



自分は何をするにも寄り道ばかりしているのに、灯世が遅いと怒るのだ。



その時の様子を思い出してクスリと笑いながら、灯世は部屋に入った。



「辰清、お待たせ…。」



灯世は息をのんだ。



辰清はうつ伏せに倒れている。



「辰清?」



眠っているとは思えない。



辰清はとても寝つきが悪くて、どんなに疲れていてもすぐには寝ない。



「辰清?」



揺さぶっても、目を開けない。



どくんと心臓が鳴った。



「いの!」



灯世は声を張り上げて、どこか近くにいるはずのいのを呼んだ。



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