この空の彼方
「灯世殿はお前に一番傍にいて欲しいはずだ。」


「わかった。
後先考えなくていいんだな。」



芦多は半ばやけくそで灯世のもとへ向かう。



すれ違い際、千歳がにやりと笑うのが見えた。



足音を殺して千歳に教わった部屋に向かう。



侍女と鉢合わせそうになると、息を潜めて隠れた。



芦多は神経を張り詰めた。



部屋に着くと、中からはすすり泣き声が聞こえてきた。



しかし、それは灯世の声ではない。



芦多はそっと中を覗いた。



中では、灯世を抱くようにして八重が泣いている。



隣には、いのが泣き崩れている。



辰之助も、灯世の向かいで拳を握り締めていた。



だが、灯世は魂を抜かれたかのように無表情だ。



どれだけ、悲しいだろう。



芦多には推し量れない。



芦多は、布団に寝かされている辰清をみた。



幼い、笑顔の辰清が記憶によみがえる。



無邪気なあの子は、もういない。



…私の出る幕ではなさそうだ。



芦多は再び足音を殺して立ち去った。













< 232 / 460 >

この作品をシェア

pagetop