この空の彼方
***
「辰清が死んだ。」
息を切らせて、千歳が走ってきた。
政隆を手伝って弟子に稽古をつけていた芦多は、驚きのあまり刀をおろした。
「何?」
「辰清様が?」
政隆も驚いて、千歳をみる。
弟子達も静まりかえった。
息を整え、千歳が説明する。
「毒を盛られたって。」
千歳の唇は震えている。
まさか、辰清が…。
「犯人はわかっているのか?」
千歳は力なく首を振った。
「わかってないらしい。」
「そうか…。」
政隆は顔を覆った。
「何ということだ…。
あの子が…。」
芦多は政隆の肩に手を置いた。
それに気付いた政隆が顔を上げる。
「芦多、灯世殿のところに行ってやれ。」
「行きたいけど、衛兵が…。」
「行ってやれ。
警護なんか俺が撹乱してやるよ。」
芦多は咎めるように千歳をみた。
「お前、これ以上罰則を食らったら洒落にならないぞ。」
「大丈夫だって。
衛兵なんか目じゃねーぜ?
黙らせるよ。」
千歳はけろっとして言うし、政隆も頷いている。
これには芦多も拍子抜けした。