この空の彼方
「いい子。」



灯世の慈愛に満ちた表情は母親特有のものなのか。



それを見ている芦多まで泣きたくなってきた。



この子は母親を欲している。



…自分は灯世を見つけた。



この子にも自分を愛してくれる誰かが現れるといいが。



「芦多、灯世殿!」



芦多達に気付いた政隆が手を上げている。



灯世は軽く会釈した。



「行こう。」



芦多は子どもを離した。



顔は見ない。



灯世は少しつらそうだった。



「政隆。」



政隆が何か言う前に芦多は口を開いた。



「何だ。」


「私は灯世とここを出ようと思う。」


「「……………は?」」



政隆と琿坐は見事に口を揃えて言った。



「お前…。」



何か言おうとした琿坐を、政隆が止めた。



「そうか。」


「そうかって政隆…。」



政隆は芦多を見つめた。



「達者でやれよ。」


「ああ。」



ここで灯世が耐えかねたように政隆に抱きついた。



「政隆様!


「おおっ!?」



政隆は慌てて灯世を抱きとめる。



「灯世殿。」



政隆は優しく灯世の背中をさする。



「その方が、灯世殿達は幸せでしょう。」


「時々、便りを送ります。」


「待ってますぞ。」



芦多は政隆から灯世を受け取る。



灯世は芦多の胸に顔を埋めた。



最後に政隆と視線を交わす。



政隆のおかげでここまで強くなれた。



皆に褒めそやされるような人間になれた。



感謝し尽くせない。



琿坐はそんな二人を見守った。



芦多は背を向けた。



育ての親と別れるのは思っていたよりもつらい。



「芦多様…。」



今度は灯世が芦多を慰めた。



政隆達から離れながら、芦多は灯世にすがるようにして歩いた。










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