この空の彼方



屋敷に帰った灯世を、辰之助が泣きながら抱きしめた。



灯世はその腕の中で身を竦ませる。



芦多は飛び出したい衝動を必死に堪えた。



灯世の後ろから、他の人間が彼女を取り囲んでいくのを眺める。



たちまち、灯世は人混みに紛れた。



「お疲れ、芦多。」



遠巻きにそれを眺める芦多の後ろから、千歳が肩に手を置いた。



「ああ。
お前達にも世話をかけたな。」


「いいって。
俺達も灯世が無事でどれだけ安心したことか。」



爪鷹が言うと、耶粗も頷く。



「でな、着いて早々だが明日出陣だとよ。」


「もうか。
そうだな、その話が出ていたな。」



このまま灯世が見つからなかったら、房姫はどうしていたんだろう。



国にとっての一大事だったのに。



「まったく、灯世も災難だよな。
疲れて帰ってきたと思ったら戦地へ、なんて。」



耶粗はやれやれとため息をつく。



芦多も同意見だ。



ぼろぼろなのに。



「まあ、今晩は八重様が休めるように取り計らってくださるよ。」



爪鷹の言葉を信じるほかない。



芦多は自分の部屋に早々に引っ込んだ。
























< 371 / 460 >

この作品をシェア

pagetop