この空の彼方
「お話?」



いのを下がらせながら、灯世は問うた。



「はい。
芦多のことを。」


「芦多様のこと…?」



それはまた…。



灯世の正面に、政隆は正座した。



改まってどうしたのだろう。



灯世は身を固くした。



「とうとう、戦になりましたな。」


「そうですね。」



避けられないことだったのかもしれない。



鍵である灯世の生まれたこの時代に、何らかの災いが起こることは決まっていたのだ。



これがそうであるなら。



この戦のために、灯世は生まれたのだ。



「出来れば、芦多達や貴方様を行かせたくはなかったんですがなぁ。」



悲しそうな顔。



いつも陽気に微笑んでいる政隆とは別人のようだ。



「あの子に、芦多という名をつけたのは、わしなんですよ。」



灯世は、黙ったまま聞いた。



「少しでも多くの明日があの子にくるように、という願いを込めてね。」



飛鳥でも読みがよかったんですがね、と政隆は顔にしわを作って笑った。



「しかし、そう願ってはいたものの、わしがあの子をこう育ててしまった。」



政隆は、今度は寂しそうに笑った。



自分が鍛えてしまったために、芦多を戦に行かせることになったと言う。



しかしそれは…



「それは違うような気がします。」



初めて意見した灯世に驚いたように、政隆は顔を上げた。



「もし政隆様が手を抜いて芦多様を育てたとします。
それでも芦多様は戦に駆り出されたはずですよね?
隊長か歩兵かの違いだったはずです。」



どのみち兵として働かされるなら、隊長のほうがよっぽどましだ。



「それに、強ければ強いほどに戦死する確率は少なくなります。」


「…灯世様は立派なお方だ。」



今日はどうしたのだろう。



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